
歯科技工士の仕事をしている叔父に、
どのようなきっかけで歯科技工士を目指すことになったのか、
なぜ今の会社で働いているのかを詳しく聞いてみました。
名前:ケンジ
年齢:56歳
職業:歯科技工士
趣味:ドライブ
今日はお時間いただきありがとうございます。今日は20代の転機について聞かせていただきたいです。突然ですが20代に自分のなかで大きな出来事はありましたか? そうですね,,,。もともと歯科技工の会社で働いていたんですがその会社が倒産してしまって、自分で歯科技工の会社を開業したことが20代で大きな出来事でした。
会社が倒産してしまったのは大変でしたね。なぜ歯科技工士になろうと思ったかからお聞きしてもいいですか? 歯科技工士になろうと思ったきっかけは、私の親戚に歯医者をしている方がいまして、その方からの紹介が大きな理由です。もともと手を動かすことが好きだったこともあり、「こういう仕事があるんだけどやってみないか?」と歯科技工士の話を聞いたときに興味を持ちました。それで歯科技工の専門学校に通うことを決意しました。
親戚の方からのご紹介だったのですね。もとから歯科技工士の存在は知っていたんですか? 少し聞いたことがあるくらいでした。当時は「歯医者さんと関係がある仕事なんだな」というくらいの認識しかありませんでした。ただ、実際に専門学校に通い始めると、歯科技工というのがとても繊細で精密な作業を求められる職業だということが分かり、やりがいを感じることができる仕事なのだと感じより歯科技工士になりたいと思うようになりました。
やりがいを感じたことでより歯科技工士を目指す気持ちが大きくなったんですね。 そうなんです。歯科技工士の仕事を知っている人はあまりいないと思うので、 簡単に説明すると、患者さんの口腔に合わせて、補綴物や入れ歯などを製作するというのが主な仕事です。
患者さんの生活をささえる大きな役割を担っているんですね。専門学校では何を中心に学ばれたのですか? 歯科技工の基本的な理論と実技の両方を学びました。例えば、歯の構造や材料の性質、補綴物の製作手法などです。特に実技では、模型を作る作業や、金属を加工してクラウンやブリッジを作る技術を一から学びました。それだけでなく、専門学校と両立する形で実際に歯科技工の現場の仕事も同時にやっていました。
専門学校に通いながら仕事もされていたんですね。とても忙しいかったと思いますがどのようなモチベーションで取り組んでいたのですか? そうですね。かなりの忙しさでしたが、その分、現場での実践的な経験を早くから積むことができたのは大きな財産でした。学校で学ぶ知識だけではなく、実際の仕事の現場でしか得られないスキルや感覚が身につきました。学校で学んだことをすぐに仕事で試してみることができたのも、両立していたからこそだったので、大変ではありましたが楽しいという感覚の方が大きかったです。
両立するのは大変だったと思いますが、それが後のキャリアに大いに役立ったということですね。歯科技工士になるには、国家資格が必要だとお聞きしましたが、いつ頃国家資格を取得されたのでしょうか。 専門学校を卒業する年に歯科技工士の国家資格を無事に取得しました。資格を取ったことで一つの目標を達成した気がして、自信もつきました。資格取得後は、最初に言ったように一般企業で歯科技工の仕事をしていました。そこでの経験もとても重要でしたが、残念ながらその会社が倒産してしまったんです。
原因は何だったのでしょうか? 社長が歯科技工以外の業種にも手を広げた結果、経営がうまくいかなくなったみたいです。いくつかの事業を同時に進めていたのですが、それがうまくいかず、最終的に会社全体が回らなくなり倒産してしまいました。
それは大変でしたね。その後、どのようにされたのでしょう? 倒産後は、小規模で個人経営の歯科技工所に転職しました。大企業での経験とはまったく異なる環境で、最初は戸惑いもありました。でも小さい規模だからこそ、仕事一つひとつに丁寧に向き合う重要性を学ぶことができました。また、会社内や取引先との直接的な「つながり」や「信頼関係」が非常に重要であることも学ぶことができました。
大企業と小規模の歯科技工所、それぞれで違う経験をされたのですね。それは今の会社の経営にも活きているのでしょうか? その通りです。非常にいい経験だったと今でも感じます。大企業では効率やスピードが重視される一方で、小規模なところでは一つの仕事を丁寧に仕上げることが評価されます。また、小さな会社では、自分で仕事を取ってくる努力も必要です。この両方の経験が、後に独立して会社を経営する際に非常に役立ちました。
なるほど。その経験が独立につながったということですね。開業はいつ頃されたのですか? 1996年に会社が倒産してしまったので、その一年後の1997年に開業しました。以前の職場の先輩と二人で歯科技工の会社を立ち上げました。場所は東京の中目黒です。親戚の歯医者さんが三つの地域で拠点を持っていたので、取引が行いやすい中間地点にあたる中目黒を選びました。
中目黒とは、非常に良い場所ですね。ただ、開業準備は相当大変だったのではありませんか? とても大変でした。歯科技工には火を使う作業があるため、物件探しから苦労しました。高温を発する機械や大きな音を出す設備があるので、それを許可してくれる物件を見つけるのが難しかったんです。最終的に小さなアパートを借りて、そこからスタートしました。
火を使ったり大きな音が出たりする環境に対応できる物件を見つけるのは、今以上に難しそうですね。設備についても準備が必要だったのではないですか? はい、設備の準備も簡単ではありませんでした。開業当初は資金が限られていたので、全て新品を揃えるのは無理でした。そのため、歯科技工に必要な機械や道具は中古品を中心に購入しました。特に技巧作業を行うための机や、金属を加工するための機械などは必要最低限のものからスタートしました。それでも、材料屋さんとの取引がスムーズに進んだおかげで、必要な道具や材料はなんとか揃えることができました。
最初は必要最低限の機材で始められたんですね。それでも、開業当初は仕事を得るのが難しかったのでは? そうなんです。開業してすぐは、仕事が全くありませんでした。半年間はほとんど無収入でしたね。当時はインターネットがなかったので、歯医者さんを調べるのも大変で、電話帳を使ってリストアップしました。それで約200件の歯医者さんに足を運びましたが、診療時間中に訪問しても相手にされないことがほとんどでした。門前払いされることも多く、辛かったです。
200件も回られたんですか。それでも成果が出ないと、かなりのご苦労だったのではないでしょうか? はい、精神的にも厳しい時期でした。でも、その中で考えたのが熱意を見せて「とにかくやらせてもらう」ということでした。お金はいただかなくてもいいので、一度仕事を試させてほしいとお願いしたこともありました。それでようやくいくつかの歯医者さんが試しに仕事を任せてくれました。最初にいただいた報酬は9600円でしたが、その金額以上に大きな意味がありました。ようやく自分の技術を評価してもらえた、と感じました。
初めての報酬は、心に残る大きな出来事だったでしょうね。その後、仕事はどのように増えていったのでしょうか? 最初にいただいた仕事を、丁寧に丁寧に仕上げました。その結果、紹介で次の仕事が来るようになりました。また、歯科技工の学会に積極的に参加し、技術を磨き続けました。新しい技術を学ぶことで、さらに幅広い仕事に対応できるようになり、それがまた新しい依頼につながるという好循環が生まれました。
学会での学びが仕事の幅を広げたのですね。それでも、新しい環境や機材での試行錯誤もあったのではないですか? そうですね。特に苦労したのが、新しい環境でうまくいかないケースです。同じ手法を使っても、材料や機械の特性が異なると結果が変わってしまうことが多かったんです。そのたびに原因を一つずつ探り、問題を解決していきました。例えば、埋没材という歯科技工で使う材料のメーカーを変えてみたり、混水比や機械の温度設定を細かく調整したりしました。最終的に、自分に合ったやり方や材料を見つけることができたので、そこからはスムーズに進むようになりました。
それだけの試行錯誤があって初めて安定した結果が出せるようになったのですね。その努力が報われた具体的なエピソードはありますか? はい、歯科材料屋さんからの紹介で、大手企業から仕事をいただいたときのことが特に印象に残っています。非常に厳しい条件の仕事でしたが、それをクリアしたことで信頼を得て、さらにその会社の本社からも依頼をいただけるようになりました。それがきっかけで仕事が一気に増えました。
そのような大手との取引は、会社としての大きな飛躍だったのですね。そこで得た経験も会社の成長に繋がったのでしょうか? そうです。大手企業との取引を通じて、さらに技術を高める必要があると感じました。それで、内冠と外冠を使った補綴物や、シーケンシャル咬合を用いた補綴物、さらにはセラミックを使った補綴物の制作技術なども学びました。これらの新しい技術を導入したことで、私たちの技工会社が「多様な技術に対応できる会社」として認知してもらえるようになりました。
新しい技術を取り入れることで、より多くの仕事を得るだけでなく、業界内での評価も高まったのですね。 はい、その通りです。そして、それだけではなく、積極的に学会に参加し、人脈を広げることにも力を入れました。自分の技術を売り込むだけでなく、同業者との交流を通じて新しい情報を得ることができたのも大きな収穫でした。
技術力だけでなく、人とのつながりも重要だということですね。最後に、これらの経験を通して仕事をしていくうえでは何が大切かを教えていただけますか? そうですね、まず言いたいのは、何事にも真摯に向き合うことが大切だということです。一つ一つの仕事を丁寧に仕上げることが、自分の信頼を築く第一歩です。また、常に向上心を持ち、自分を磨き続けることが重要です。そして、自分一人で完結するのではなく、人とのつながりを大切にし、周りと協力しながら成長していく姿勢が必要だと思います。
貴重なお話をありがとうございました。